東京パラスポーツスタッフ認定者インタビュー(8)
射撃・コーチ 鳥居健さん|スポーツTOKYOインフォメーション(2019/9/27)

菊池拓道さん写真 
【プロフィール】
  • とりい・たけし 1956年生まれ。
  • 東京都ライフル射撃協会、埼玉県ライフル射撃協会、埼玉県身体障害者ライフル射撃連盟所属。
  • 日本ライフル射撃協会認定コーチ、日本スポーツ協会公認コーチ、障害者スポーツ協会指導員などの資格を取得。

ライフル銃またはピストルで、固定された標的を制限時間内に規定弾数を撃ち、その的中した合計点数で勝敗を争う「射撃」。選手の発掘・育成に積極的に取り組んでいる鳥居健コーチにインタビューしました。


障害のない人と同様に、障害のある人が一人ひとり違うのも当たり前

「理論」より「コツ」

〜パラ射撃のコーチとなった経緯を教えてください。〜

娘と一緒に行ったオモチャ屋さんでエアガンに魅せられたことがきっかけです。スポーツ射撃の面白さを知ることになり、趣味で射撃を始めましたがその後、競技の射撃に転向しました。

コーチになったきっかけは、東京2020大会の開催が決まって、日本障害者スポーツ射撃連盟の方からパラ射撃の発掘・育成に係る事業を手伝って欲しいと言われ、人に教えることが好きだということもあって、ふたつ返事で引き受けました。

それまでは、東京や関東には障害者の競技団体がほとんどなく、埼玉県ライフル射撃協会や足立区総合スポーツセンターのエアライフル場を中心に活動をしていました。ノーマライゼーション射撃大会を手伝ったりもしていましたが、発掘・事業をきっかけにパラ射撃に本気で取り組むようになりました。
 また、私が射撃を教わったのは日本障害者スポーツ射撃連盟の方で、練習場には、元パラリンピアンの選手もいらっしゃったこともあり、初めから障害の有無の垣根はありませんでした。


〜指導を行っている中で何か気づきはありましたか。〜

射撃に関しては教本や教材の数が多くないため、過去に遡って関連資料を集めたり、射撃をするうえで身体の構造を知ることも大切だと思い、バイオメカニクスなどについても勉強し、コーチの資格を取りました。

意外に思われるかもしれませんが、撃つ時の姿勢をどう保つか、また一連の動作を考える上で、「バレエ」「太極拳」「能」なども参考にしました。「バレエ」は身体の軸ということを意識して、とても理論的にレッスンします。「太極拳」は呼吸と連動させてゆっくりとした動きが求められます。「能」は高齢の師範が、身体がブレることなく舞うわけですから、そこには何か秘密があるはずだと思いました。

頭では理解しているつもりでも「コツ」は自分なりにやってみないと掴めません。
 射撃の練習方法やトレーニング方法について、形は真似できても「これだ」という感覚がない。それでどこかにヒントがないか、今でも色々と学んでいます。指導の中で、他の競技のアスリートを紹介したり、禅や瞑想の話をしたり。選手は疑問に思う時も多いと思います

鳥居健さんの写真1

〜その中で何か心掛けていることはありますか。〜

障害のない人と同様に、障害のある人が一人ひとり違うのも当たり前。だから、あなたはどうなの?と詳しく話を聞いたうえで指導やアドバイスをするようにしています。

障害になった時のこと、医者から何を言われているか、感覚はどうなのか、私はどんどん聞いていきます。射撃は「自分の身体と心に向かい合うスポーツ」です。話し合う中で、初めて自分の身体の働きや動きに気づく選手もいます。

 また、指導する立場としては、どの人にどの言葉を使えば伝わりやすいか考えています。選手全員に同じことを求めるけれど、選手に対する言い方はそれぞれ変えています。選手にすんなり伝わる言い方をいつも工夫しています。

鳥居健さんの写真2

『東京パラスポーツスタッフとしてチームを牽引していきたい』

〜鳥居さんの思うコーチの理想像はありますか。〜

選手が上手くなっていくこと、競技を理解していくこと、練習や学習することを「選手本人に楽しいと思わせるコーチング」を理想としています。いくらパラリンピック出場、そしてメダル獲得を目指していても、楽しくなければ意味がないと思います。
 射撃は楽しい、面白い、射撃が大好きと言ってもらえたら嬉しいです。結果は後からついてくると思っています。

また、青少年の選手に対しては、技術指導ということもありますが、人格を形成する大切な時期なので、射撃よりもそちらを優先させて取り組んでいます。例えば、若手選手が成長していく中で、自分で考える、自分でやってみる、自分で判断して決める、自分の意見を言ってみる、自分が納得して自分の決断でやることが大切だと思います。コーチではあるけれど、選手が成長することに重きを置いています。

鳥居健さんの写真3

〜東京パラスポーツスタッフに認定された感想や本制度について何かありましたらお聞かせください。〜

認定されて嬉しい気持ちもありました。しかし、これまでは好きに教えていればよかったのですが、立場や役割を考えるようになり、強く責任を意識するようになったのが大きいです。自分はパラスポーツスタッフとして何が出来るのか、何をしなければいけないのか、そういうことを考えるいい機会になりました。

東京2020パラリンピック大会、パリ2024パラリンピック大会などの舞台で世界と戦うには、優秀な選手が必要なのはもちろんですが、優秀なスタッフと共にチーム力で戦っていかなければ世界に勝てないと私は思います。チーム力というものを考えた時に、東京パラスポーツスタッフがそのチームを牽引していく力があればいいなと思うし、そうあって欲しいです。

『まずは足を運んで体験して』


〜これから挑戦してみたい人へ何かひとこといただけますか。〜

選手発掘に向けた取組などのおかげで、競技転向を検討している方が多く、興味を持ってもらえるようになりました。それまでは競技の転向を検討したくても、説明を聞いたり、体験したりする機会がありませんでしたが、最近はその機会が格段に増えています。
 以前、車いすバスケットボールの選手から「射撃だったらセカンドキャリアとして長く出来そうだと思った」とお伺いしたこともあります。止まっている標的を、正確に狙って撃つという特殊な競技ですから、そこに興味を持ったという方も多いです。

実際にやってみて、面白いという人が多いのは確かです。元車いすテニス日本代表の古賀貴裕選手は体験した際に、「照準を覗いた時、そこから見えた映像にすごく魅力を感じました。パラリンピックを目指したいけど、それが叶わなくとも生涯スポーツとして射撃をやってみたい」とおっしゃっていました。

鳥居健さんの写真4

射撃は見ているだけではよくわからないと思います。やってみて面白さや、難しさがわかるスポーツです。これから射撃に挑戦したい方は、ビームライフルで体験していただいて、自分に合っているかどうか判断したり、実際に射撃をやっている選手から話を聞くのが一番いいかなと思います。練習場に足を運んでいただいて何でも聞いてください。

鳥居健さんの写真5

〜最後に東京2020パラリンピック大会を目指す選手たちに期待していること、応援のエールをお願いします。〜

やれることは精一杯やったかどうか、後悔することのない取り組みであったか、気持ちのいい汗を流したか、頑張っている自分を実感できたか、それが大事だと思います。あなたの人生、私の人生の中で2020年に遭遇するのは一度だけ。あの時こんなことをやっていた、頑張っていたと、自分史に刻めるように頑張りましょう。

日本障害者スポーツ射撃連盟

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学生時代は教師を目指していたという鳥居コーチ。インタビューではまるで教師のように1つの説明に対して多くの例えを用いながらボキャブラリー豊富に、時にはユーモアを挟んで楽しく答えてくれました。一方、誰よりも射撃を楽しみ、選手に競技を理解して面白いと思ってもらうために、誰よりも貪欲に学ぶその姿勢から多くの可能性を感じました。