東京パラスポーツスタッフ認定者インタビュー(4)
柔道・コーチ兼トレーナー 藤野好正さん/渡邊昌生さん(2019/3/4)

藤野好正さんと渡邊昌生さんの写真 
【プロフィール】
  • (写真左)ふじの・よしまさ 1968年生まれ。ふじの整骨院所属。
  • 25歳の時に柔道整復師免許を取得し、1996年より埼玉県草加市でふじの整骨院を開業。2012年より視覚障害者柔道連盟より委託を受け、強化コーチ及びトレーナーとして活動。
  • (写真右)わたなべ・まさお 1968年生まれ。西川口接骨院所属。
  • 中学から社会人まで柔道を続け、大学では柔道を専攻する。現在は柔道整復師として西川口接骨院を開業。これまでの柔道経験を視覚障害者柔道に活かすべく、強化コーチ及びトレーナーを受任。

東京2020パラリンピックでメダルが期待される競技のひとつ「柔道」。視覚障害者柔道の強化コーチ及びトレーナーを務める藤野好正さん、渡邊昌生さんのお二人にインタビューしました。


藤野好正さんと渡邊昌生さんの写真2

「勝つのは選手の努力で、
負けるのは僕らスタッフの力量不足。」

『「あっち」「そっち」という言葉は使わない。』

〜視覚障害者柔道のコーチ兼トレーナーとして打診された時はどのように思いましたか。〜

渡邊 大学時代の同級生である特定非営利活動法人日本視覚障害者柔道連盟の佐藤理事から、柔道のコーチとトレーナーの両方で活動ができる人を探しているということで依頼が来ました。これまで視覚障害者と関わったことがなかったので少し不安もありましたが、引き受けることにしました。

藤野 東京2020大会が決まるかもしれないというタイミングで、私も同じく佐藤理事からお話が来ました。大学時代からの仲間なので二つ返事で承諾しました。渡邊さん、佐藤理事とは大学の同期なんです(笑)。


〜現在はどのような仕事と役割なのでしょうか。〜

藤野好正さんの写真

藤野 選手たちのバックアップです。行動面のサポーター、コーチ、トレーナーの3つの役割を担っています。選手が移動する際は一緒に付き添いながら、段差があることを知らせたり、サポートを行っています。練習ではコーチとして指導し、トレーナーとしては選手のケアに携わっています。


〜視覚障害がある人のサポートを始めて何か気付きはありましたか。〜

渡邊 会話では「あっち」「そっち」という言葉は使わず、具体的な言葉で知らせる事を心掛けています。でも、つい「玄関はそっちだよ」とか使ってしまいますね(笑)。階段も段差があることだけでなく、上りなのか下りなのかも伝えないといけません。練習で前転と言っても距離感が伝わらないので、手を叩きながら位置を知らせたりしています。このような視覚障害の立場でサポートする感覚は、スタッフに携わってから学びました。


『仲間だから問題を一人で抱え込まずに共有できる。』

〜お二人とも本職とスタッフとしての活動をどのように両立していますか。〜

渡邊 個人事業主なので合宿や遠征があると休診にしなくてはならず、その間の収入がなくなってしまうのは厳しいと思います。スタッフの方はボランティアに近いものなので金銭的な両立は厳しいですね。ただ、柔道やその指導に携われるのは勉強になりますし、選手が患者として来てくれることもあります。

藤野 同じように両立は厳しいですね。合宿は月に1回というペースなのですが、連休に絡めたり、休診の日と重なっていると助かります。それ以外は仕事を終わらせてから合流したりして、本職に影響が少ないようにしています(笑)。


〜スタッフになったことで本職にプラスになったことはありますか。〜

渡邊昌生さんの写真

渡邊 障害を持つ方に対しての接し方が変わりました。仕事だけでなくても、外を歩いている時も視覚障害者の方がいれば声をかけてあげようと思います。

藤野 患者として視覚障害の方も増えましたし、自分で障害のことも勉強するようになりました。


〜お互いにコーチ兼トレーナーとしてどう見ていますか。〜

藤野 仲間です。一人で抱え込むよりも仲間と問題を共有した方が早く解決できます。仲間がいて本当に良かったなと思います。

渡邊 大学が一緒で、お互いに苦労してきた時代を知っているので、何も言わなくても目を合わせて分かることもあります。そういう意味ではやりやすいです。僕が気付かないことを気付いてくれたり、また、その逆もあります。

藤野 阿吽の呼吸です(笑)。他のスタッフも同期なので仲間意識がうまく作用しています。


〜コーチ兼トレーナーとして心掛けていることは何かありますか。〜

藤野 視覚障害の選手たちなので、私たちが目の代わりにならなければいけないと思っています。柔道という競技は、投げたり、投げられたりしますから、周囲の選手にぶつかって怪我をしないように、体を張って盾となるように心掛けています。

渡邊 常に選手主導で考えています。例えば、連盟から書類が届くと、それは点字なのか、普通の印刷物なのか、データなのか、選手が読めるのかを確認します。合宿等の遠征先であれば、建物や部屋の作りがどうなっているのか、ビュッフェスタイルの食事であれば、何があるのか説明しながら取り分ける事もします。柔道以外の事の方が気を使うかもしれません。


〜仕事や競技サポートに疲れた時、どのようにリフレッシュしていますか。〜

藤野好正さんと渡邊昌生さんの写真3

藤野 柔道の合宿自体がリフレッシュになっています。ここには同級生が何人もいて大学時代のように気を許せる仲間に戻れますから。あとは熱帯魚が好きなので、熱帯魚の世話をするか、釣りをすることです。

渡邊 僕も同じようなもので、犬と戯れている時間ですね(笑)。


『視覚障害者柔道は健常者とも対等に出来るスポーツ。』

〜「東京パラスポーツスタッフ」に認定されて、どのようなお気持ちですか。今後の意気込みなどもお願いします。〜

藤野 現在、東京ゆかりの選手を指導していますが、それ以外のパラスポーツ選手にも積極的に支援を行っていきたいと思います。

渡邊 僕は認定証を接骨院に飾りました。認定されたことで声をかけてくれる患者さんが増え、大変励みになります。東京2020大会も近づいているので、休診理由を理解してもらいやすくなりました。


〜「スタッフ」とはどういう存在だと考えていますか。〜

渡邊 完全に裏方の仕事なので、特に選手より前に出ることはありません。勝つのは選手の努力で、負けるのは僕らスタッフの力量不足です。試合で負けた時は素直に選手に謝ります。

藤野 アスリートファーストで、スタッフとして常に選手のために動くことを心がけています。


〜柔道をやってみたい人にメッセージをお願いします。〜

渡邊 障害があるからと引け目を感じることはないですし、是非挑戦して欲しいです。視覚障害者柔道について言えば、みんな視覚の度合いは違いますが、その違いは「個性」だと思います。その「個性」に柔道がそれぞれの柔道スタイルとなるので、お互いに対戦するのが楽しいです。同じ柔道でも、見えるところも、感じるところも違います。どのスポーツでも障害を「個性」として考え、まずは体験してみると、自分に合う競技に出会えると思います。

藤野好正さんの写真2

藤野 視覚障害者柔道は、パラスポーツの中でも、組手から始められることで、健常者とも対等に出来るスポーツの一つで、そこは、皆さんにアピールしたい所です。全国、どこの町の道場でも快く受け入れてくれると思いますので、気軽に始められます。興味があったら挑戦してみて欲しいです。


〜東京2020パラリンピックを目指す選手へ期待していること、応援のエールをお願いします。〜

渡邊昌生さんの写真2

渡邊 柔道は「日本のお家芸」と呼ばれる種目なので、できるだけメダルの数を獲って欲しいですし、僕らも金メダルを獲ってもらえるように考えながら指導をしています。もちろん他の競技も含めて、今は日本一丸となって頑張る時期だと思っています。

藤野 リオ2016パラリンピックでは日本の金メダルは1個もありませんでした。東京2020大会ではこのまま同じ状況で終わらせるわけには行きません。全種目で金メダル獲得に向けて努力しているので、私もスタッフとして選手たちの手助けになれるように一緒に頑張っていきたいです。

特定非営利活動法人日本視覚障害者柔道連盟ホームページ リンクから外部ウェブサイトへ

学生時代は同期だった藤野好正さんと渡邊昌生さんの二人。同じ道を歩み、互いに分かり合っているからこそ、それぞれの姿勢を尊重し、補い合っている姿が印象的でした。この仲間の絆、スタッフ同士の結束が、選手たちを支える大きな力となっているのかもしれません。