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東京パラスポーツスタッフ認定者インタビュー トライアスロン・コーチ 富川理充さん(2018/12/27)

富川理充さんの写真
~プロフィール~
  • とみかわ・まさみつ 1972年生まれ。
  • 専修大学/公益社団法人 日本トライアスロン連合(JTU)所属。
  • 2008年、筑波大学にて博士(体育科学)を取得。
  • 2011年に専修大学商学部へ入職し、2015年に同大学トライアスロンクラブを創部。
  • 2012年よりパラリンピック対策チームのリーダーを務める。

 リオ2016パラリンピックからパラリンピックの正式競技となった「パラトライアスロン」。そのパラリンピック対策チームのリーダーとして、競技を牽引する富川理充さんにインタビューしました。


「「観察」と「感覚」を大事に
選手に寄り添ったコーチングを行う。」

『選手がどう考えているのか、その選手には何が正しいのか。』

〜現在、コーチとして心がけていることはありますか。〜

 僕は「観察」と「感覚」を大事にしています。

 選手は個々に違うので、指導するには「観察」し、選手がどう感じているのか、僕らもそれを感じられることが必要だと思います。

 例えば、「こういう動作が正しい」ではなく、こういう動作ができたらいいけど、それは選手にとって良いのか悪いのか、実際に試してみて検証しないといけません。また、動作そのものを伝えることもありますが、その選手が「どうすればその動作を実現できるか」をイメージや感覚を共有した言葉で伝えられることが重要と考えています。

富川理充さんの写真2

 ある技術を指導する際に自分の意図と違った動作や結果になることもあります。それは伝え方が間違っていたり、その選手には最適ではない技術であったことになります。では、僕の目指す動作を選手に実現してもらうには、その選手のどの「感覚」に訴えかけなくてはいけないのかを考えるのです。

富川理充さんの写真3


〜例えば、重心を低くしてと言っても、選手によって捉え方が違うこともあるということですか。〜

 重心を低くすると、どう影響するのか、それが自分自身にとって良いことなのか、悪いことなのか、選手も分かって、僕も分かるように努力する必要があります。選手の状況・状態、選手がどう感じているのかを把握していないと、その次に進めません。


〜トライアスロンの常識だけでは計れない?〜

 気をつけなくてはいけないのは、障害のない選手で正しいとされる技術が、パラトライアスロンの選手にとって、必ずしも正しいことではない場合がある事です。パラスポーツは研究事例やデータが少ないので、個々に対して自分の中で蓄積していかないといけないことかなと思っています。その選手を観察して、選手が何を考えているのかを聞き取る、コーチング自体は障害のある選手もない選手も変わりません。


〜現在、専修大学で教鞭をとられながら、競技指導を行っていますが、その両立はどのようにしていますか。また、大学の役割はどういったものだと思われますか。〜

 どちらも、やるからには仕事も競技指導も周囲に納得してもらえる程度のレベルを目指しています。「ちゃんとやることやっているし、あいつだったらしょうがないな」と言われるぐらいのことはやっているつもりです。でも、周りの評価なので、本当に出来ているかどうかは僕にはわかりません(笑)

 僕は大学の役割は「教育」「研究」「社会貢献」と思っています。大学院時代にお世話になった恩師の教えです。「教育」「研究」で得られた知見等を社会に還元することが「社会貢献」に繋がります。もちろんその逆もあります。今のコーチングは「社会貢献」であると僕は思っています。


〜両立していて良かった点はありますか。〜

 専修大学のスポーツ研究所の先生方は、外部の国内競技連盟(以下、NF)等の活動に携わっている方も多く、オリンピックの金メダリストもいます。普段からそうした方たちと接する中で、意見や考え方を聞けるのは大きいですね。

 NFの仕事はチームでやる仕事なので、どういうことを報告・連絡・相談しなければいけないかなど参考になります。また、僕や「パラトライアスロン」のことを理解してもらうためにも、大学、特にスポーツ研究所内には積極的に情報発信をしています。


〜指導やコーチングをするうえで影響を受けたものはありますか。〜

 やはり専修大学の同僚や先輩方、大学院時代の経験と恩師の影響を受けています。ちなみに私の恩師は3人いて、大学院の恩師、選手時代の恩師・飯島健二郎さん、それから父親です。

 その大学院の恩師は、1970年代から80年代にかけて、何度かアメリカに留学されたそうです。当時、オリンピックの競泳で指導した選手のメダル獲得数が最多と言われていたコーチが在籍するチームがある大学にです。そのチームで選手が移籍や辞める際、そのコーチは手を差し伸べて「おまえを伸ばすことが出来なくて悪かった。次のチームで結果を残せるように頑張れ。」と言葉を贈るのです。

 コーチングを楽しいと言う人がいます。もちろん、そう思える事があるからこそ続けられると思いますし、僕もそう思うことはあります。ただし、僕はコーチングを楽しんではいけないと思っています。それはコーチの立場であって、選手からすれば自分をいかに強くしてくれるのかを望んでいます。コーチングは、恩師が留学先で聞いたコーチの言葉のようであるべきだなと思います。

 コーチは教える役割ではなく、導く役割です。いろいろな勉強をして、情報を蓄積して、選手の悩みに示唆を与えてあげられるのがコーチではないでしょうか。

富川理充さんの写真4


〜「東京パラスポーツスタッフ」に認定されて、どのようなお気持ちですか。今後の意気込みなどもお願いします。〜

 NFから選出されて認定されたので責任を感じています。東京2020大会がきっかけなのかもしれませんが、世界において、競技は2021年以降も続きます。僕らがやるべきことは、パラトライアスロンが広く認知され、応援してくれる人達を増やしていくのが重要なのかなと思います。


『選手たちの姿を、ぜひ、現場で観戦して欲しい。』

〜パラトライアスロンの今後の課題と目標についてお聞かせください。〜

 先日、今シーズン最後のワールドカップがポルトガルで開催され、そこでは、海外の若手や他競技から転向した選手が目立ちました。スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(陸上)の3つを最初から教えるのは非常に時間を要して厳しいと思うので、他競技から来る選手をしっかりとした環境で練習できるようにするのが重要かなと思いました。今いる国内選手もトライアスロンだけやってきたわけではなく、他の競技もやってきたので、その強みや弱みを共有して戦えるような選手、チームを作っていく必要があります。

 そして、各選手が「パラトライアスロンといえばあの選手」という存在に、競技力だけではなくて、人間的にも目標とされるような選手になって欲しいです。僕はその手伝いを出来るといいですよね。


〜スポーツファンに注目して欲しい競技の魅力やポイントを教えてください。〜

 テレビで視聴するのと、現場で観戦するのでは全く違います。特に自転車のスピード感はすごいです。例えば、片足だけで自転車を漕ぐ選手が、目の前を猛スピードで通り過ぎて行くのを見ると、圧倒され驚かされます。

 パラトライアスロンですと、選手の得意不得意で順位の入れ替わりが激しいです。スイムが遅くてもバイクとランで追い上げて行く選手もいますし、一方、スイムで先行して逃げ切りを図る選手もいます。個人の強いところ、弱いところが如実にレース展開に現れるあたりが、魅力かもしれません。

 障害によって使う装具の違いもあります。義足を使う選手ですとトランジション(種目を移り変わるところ)で、義足を自転車用から走行用に切り替えたりします。我々はトランジションで、いかにタイムを短縮するか工夫しているので、そこも見所です。さながらF1レースのピットのような感じですね。

富川理充さんの写真5


〜競技を始めてみたいという障害のある方にアドバイスをいただけますか。〜

 車いすやタンデム(2人乗り自転車)を使わないようであれば、一般のトライアスロン・レースにも出場しやすいです。まずはレースに出てみてはいかがでしょう。レースに出れば、そこでコミュニティが出来て繋がりが広がると思います。トライアスロンのチームに所属している選手の方が多いです。まずは、コミュニティの中に飛び込んでみるのがいいと思います。


〜最後に、競技の今後の展望があればお聞かせください。〜

 やはり、東京2020パラリンピックで、より多くの日本人選手が活躍してもらい、その姿を観戦しに来ていただくことです。そこから2020年以降、パラトライアスロンが認知されて、多くの人が競技に携わってくれるような環境になればいいなと思います。

富川理充さんの写真6

公益社団法人日本トライアスロン連合
パラトライアスロンオフィシャルサイト

選手にとって何が正しいことなのか?常に選手本位に物事を考える冷静な「観察」と、人心を察する「感覚」を持ち合わせる富川コーチ。東京2020大会はもちろんのこと、その先の競技全体の発展を考えている先見的な目も持ち合わせた方だと思いました。